君の名残を(朝倉卓弥)

この小説の一番すごいところは、現代の若者が源氏やら平氏やらの時代に飛ばされて、歴史上の人物「巴御前」、「武蔵坊弁慶」として生きていく光景を違和感なく書き上げているという点です。時代考察もしっかりしていますから、もしこのお話を学生時代に読んでいたら歴史の授業が楽しくなっていたでしょう。

形式としては、様々な人物の視点に切り替わるというものです。なので、どの人物に感情移入するかで捉え方に変化がありそうです。例えば女性の読者なら、「巴御前」こと「友恵」に。巴御前は昔の女性のイメージ、おしとやかで、男性に守られる存在、というものとは離れた方です。木曽義仲と結ばれ、共に戦に出、敵の首とねじ切るその姿は、まるで現代の働く女性のようで、より共感しやすかったです。

また、文章自体にものすごく「切なさ」があります。戦場で散っていく人々、現代で結ばれそうだった二人が、歴史上結ばれることはないということをわかって、それでも頁を進めるのは胸が痛くなります。二人の最期は、歴史に忠実ですが、大変美しいものです。

歴史ものが好きな方にも、ロマンスが好きな方にも。両方のいいところが沢山つまっています。隠れた名作といえるでしょう。